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札幌地方裁判所 昭和50年(わ)107号 判決

主文

被告人を懲役二年に処する。

未決勾留日数中一五〇日を右の刑に算入する。

押収してある改造小型けん銃二挺(昭和五〇年押第五二号の一、二)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、法定の除外事由がないのに、昭和四九年五月下旬ころ、札幌市白石区東札幌五条五丁目大和ハイツ八号室において、がん具ライフル銃を改造した金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲一挺を所持した

第二、通商産業大臣の許可を受けた業者でないのに、同年五月下旬ころ、札幌市豊平区平岸四条一二丁目の自宅において、がん具ライフル銃の銃身を取替えるなどして、金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲一挺を製造し、もつて、武器の製造をした

第三、公安委員会の運転免許を受けないで、同年九月二一日午前四時五分ころ紋別郡興部町東町興部高校前付近道路で普通貨物自動車を運転した

第四、法定の除外事由がないのに、同年一〇月四日ころ、紋別市港町四丁目二九番地の自宅において、がん具けん銃を改造した金属性弾丸を発射する機能を有するけん銃二挺(昭和五〇年押第五二号の一、二)を所持した。

第五、法定の除外事由がないのに、同年七月ごろ、札幌市中央区南九条西三丁目ビジネスホテル「かねほん」において、がん具けん銃を改造した金属性弾丸を発射する機能を有するけん銃一挺を所持した

ものである。

(証拠の標目)〈略〉

(法令の適用)

一、判示所為 第一、銃砲刀剣類所持等取締法三一条の三第一号、三条一項(懲役刑選択)

第二、武器等製造法三一条前段一号、四条(懲役刑選択)

第三、道路交通法六四条、一一八条一項一号(懲役刑選択)

第四、第五、銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項(懲役刑選択)

二、併合罪加重 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も重い判示第四の罪の刑に加重)

三、未決勾留日数の算入 同法二一条

四、没収 同法一九条一項一号、二項

五、訴訟費用 刑事訴訟法一八一条一項但書

(武器等製造法違反に対する適条について)

一検察官は被告人の判示第二の武器等製造法違反の所為は、同法三一条(後段)一号、四条に該当するというのである。

二1 よつて、検討するに、武器等製造法(以下単に「法」という)三一条前段は、「左の各号の一に該当する者は、三年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と、同条後段は、「この場合において、第一号又は第四号に該当する者が銃砲又は猟銃の製造をした者であるときは、五年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と規定し同条一号に「第四条〔武器製造の許可〕の規定に違反した者」を挙げている。同法四条は、「武器の製造は、前条の許可を受けた者(以下「武器製造事業者」という)でなければ、行つてはならない」と規定し、武器の定義として、同法二条一項は、「この法律において「武器」とは、左に掲げる物をいう」として、同条同項一号に「銃砲(産業、娯楽、スポーツ又は救命の用に供するものを除く。以下同じ)」を挙げ、二号以下において、銃砲弾、爆発物、爆発物を投下し又は発射する機械器具、前各号に掲げる物に類する器具、もつぱら前各号に掲げる物に使用される部品を列挙している。これによつてみれば、武器等製造法自体は、二条一項一号の括弧書によるほかは、格別銃砲の範囲を限定していないかのように思われる(ただし、同条二項において、「この法律において「猟銃等」とは、左に掲げる物をいう」として、猟銃、捕鯨銃、もり銃、と殺銃、空気銃(ガス銃を含む)を列挙しており、同法は、武器の製造事業の許可は通商産業大臣が(同法三条)、猟銃等の製造事業の許可は、都道府県知事が(同法一七条)それぞれ行なうものと規定するなど武器と猟銃等について、取扱いを異にしているから、武器である同法二条一項一号の銃砲が大円、同条二項の猟銃等がその小円となるような関係にはなく、相重ならない別異のものと解される。したがつて、同条一項一号の銃砲には、猟銃等が含まれないことは明らかである。)

2 他方、武器等製造法施行規則(昭和二八年九月一日通商産業省令第四三号)(以下単に「規則」という。)二条一項は、「武器の種類は、左の通りとする。一、左に掲げる銃砲イ、左に掲げる銃(1)けん銃(機関けん銃を含む。以下同じ)(2)小銃(3)機関銃(口径が二〇ミリメートル未満のものをいい、機関けん銃を除く。以下同じ)ロ、左に掲げる砲(1)小口径砲(口径が二〇ミリメートル以上四〇ミリメートル以下の銃砲をいう。以下同じ)(2)中口径砲(口径が四〇ミリメートルをこえ九〇ミリメートル未満の銃砲をいい、迫撃砲を除く。以下同じ)(3)大口径砲(口径が九〇ミリメートル以上の銃砲をいい、迫撃砲を除く。以下同じ)(4)迫撃砲」と規定し、要するに銃砲として「けん銃、小銃、機関銃、砲」を挙げ二号以下において、銃弾、砲弾(第一種ないし第四種)、爆発物(第一種ないし第三種)その他多数を列挙している。

3 同規則の規定に定めると同義の銃砲であるけん銃、小銃、機関銃、砲は、後に述べるとおり、銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二の不法所持罪を構成し、かつ、同条新設に伴い武器等製造法三一条後段の規定が新設された経緯等をも併せ考えると、同規則の定める種類の銃砲は、法のいう銃砲の範囲を限定するものか、また、法三一条の罰則の構造になんらかの関連を有するものかどうか多少疑義があるので、あらかじめこの点を検討することとする。

そもそも、同法の場合、銃砲の範囲を画することは、本来法律事項に属するものと考えられるにかかわらず、法には、統砲の範囲を命令に委ねる旨の規定がなく、かつ、武器の種類を定める前記規則の法形式が省令であること、法三条は、武器の製造事業は行おうとする者は、工場又は事業場ごとにその製造する「武器の種類」を定めて通商産業大臣の許可を受けなければならないと定めていることなどに徴すると、右規則の規定は、これによつて、法の定義による銃砲の範囲を限定する趣旨のものと解すべきではなく、武器の製造事業を行おうとする者が法三条に従つてする許可申請手続の細目を定めた執行命令と解するのが相当である。

右のとおり、当裁判所は、法二条一項一号にいう銃砲の範囲は規則二条一項によつては制限を受けないと解するのであるが、法の立法目的、制定の経過、関連法規である銃砲刀剣類所持等取締法(以下単に「銃刀法という。)における銃砲の不法所持罪の内容および同法および法三一条改正の経過ならびに法三一条の罰則の構造等に照らすと、法三一条後段にいう銃砲の範囲は、銃刀法二条に銃砲の例示として挙げられ、かつ、同法三一条の二により他の装薬銃砲の所持の罪(同法三一条の三)よりも重く処罰されることとされている「けん銃、小銃、機関銃、砲」と同義であり、その範囲は、規則二条一項一号に武器の種類として挙げられているものと結論において同一であると考える。

そして、右以外の装薬銃砲は、法三一条後段にいう銃砲にはあたらないが、法二条一項一号にいう武器としての銃砲にはあたるから、その製造は、法三一条前段の罪にはあたるものと解するものである。

4 本件装薬銃砲は、けん銃、小銃、機関銃、砲のいずれかにあたるとの証明はないが、それ以外の装薬銃砲には、なおあたると認められるので、本件については、同法三一条前段を適用すべきものと考えるのである。その理由の詳細は、以下に述べるとおりである。

三1 わが国における武器の製造は、戦前より明治四三年法律第五三号「銃砲火薬類取締法」(以下「旧法」という。)により、許可制が敷かれていた。そこでいう銃砲の範囲は、同法第一四条により命令を以て定むることとされ、明治四四年勅令第一五号「銃砲火薬類取締法施行規則」第一条が、その範囲を「銃砲火薬類取締法に於テ銃砲ト称スルハ軍用銃砲及非軍用銃砲ヲ謂フ」と定めていた。同法は、軍用銃砲と非軍用銃砲について、それぞれ取締上の取扱いを異にしていたものの、銃砲の製造については、軍用・非軍用の如何を問わず、一律に処罰することとされていた(旧法一六条、一条)。また、同規則第一条によるも、結局製造について処罰さるべき銃砲の範囲は定まらなかつたから、銃砲の意義は解釈に委ねられていたと解されるのである。しかるに、同法は、太平洋戦争の終結に伴ない発せられた「ポツダム」宣言受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件」(昭和二〇年勅令第五四二号)に基く「兵器航空機等の生産制限に関する件」(昭和二〇年商工、農林、文部、運輸省令第一号)第一条により兵器、航空機、戦闘用艦艇、弾薬等の製造が全面的に禁止され、次に述べる同省令の改正が行なわれるまでの間、旧法の定める許可制は、事実上空文と化していた。すなわち、銃砲のうち、猟銃、捕鯨銃、捕鯨用標識銃、救命索発射銃及び空気銃については、同二五年一二月同省令の一部改正により「兵器」の範囲から除外されて生産、販売営業の許可制度が施かれるまでの間、その他の銃砲類については、同二八年四月九日同省令の一部改正により例外的な許可制が敷かれるまでの間の数年にわたり、製造が禁止されていたのである。

そして、その間の昭和二五年五月四日法律第一四九号「火薬類取締法」が公布され、同法附則二項により旧法(銃砲火薬類取締法、なお旧法が、それまで効力を有するものであつたことは最高裁判所第三小法廷昭和二四年五月一七日判決)は廃止された。火薬類取締法は、銃砲の取締については何ら規定するところがないが、前記省令「兵器航空機等の生産制限に関する件」は未だ有効に存在し、銃砲の製造等は右省令により規制されていたので、「火薬類取締法」が、銃砲に関する規定を設けないままで旧法を廃止したとしても格別支障を来さなかつたものと認められる。

しかるに、銃砲の製造に関する唯一の規制法である右省令も、その後、いわゆる講和条約の発効に伴い制定された「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件を廃止する法律」により、同二八年一〇月二四日、同法の定める猶予期間の経過とともに失効し、じ来、わが国においては、武器・銃砲の製造に関する法的規制が全く存しない空白状態が現出するに至つた。取調べにかかる第一五回国会衆議院委員会議録のうち通商産業委員会会議録第一二号、第一八号、第一九号、第二一号、第二四号、第二五号、第二七号、第二八号、同委員会議録附録および通商産業省重工業局航空機課長「武器等製造法解説」(経済団体連合会刊)、昭和二八年九月一四日二八重局第一一七一号通商産業省重工業局長、同省軽工業局長通牒「武器等製造法の施行について」によれば、わが国においては、昭和二七年二月以来、駐留米軍より、企業に対する武器(兵器)の発注が激増し、いわゆる特需景気が招来され、武器の製造については法的規制がなかつたところから、「関連業界の受注に対する熱望は、ややもすると事業濫立の弊害を示す傾向さえ見受けられる事態」(国務大臣)に立至り、いわゆる出血受注を厭わぬ者も現われるに至つたことが認められる。前掲会議録第一二号によれば武器等製造法案の提案理由は、「第一にこの法律案は、公共の安全を確保するため、武器及び猟銃等の製造販売その他の規制を行うだけでなく、武器製造事業について、国民経済との均衡を失わしめず、この事業の濫立による弊害を排除し、あるいはまた海外に対する政治的配慮などの理由から、あまりに製造能力が過大となることは厳に押えなければなりませんので、武器製造事業は許可を要することとし、その製造能力を必要限度にとどめることにしました。第二にこの法律案の適用を受けるものは、武器については、銃砲、銃砲弾、爆発物等、公共の安全を確保しまするとともに、事業の調整を行う必要が特に大きいものに限定し、また猟銃等については公共の安全の確保という観点から規定いたしました(傍点は当裁判所)。」というものであつて、公共の安全の目的と事業活動の調整という経済目的にあるというものであつたが、後者に主眼があるかのようであつたことは当時の社会情勢としては止むを得なかつたものと解される。前掲「武器等製造法解説」、通牒にもまたかかる目的を力説しているのである。

しかしながら、当時のわが国は、前述した兵器(武器)の全面禁止から暫定的な許可制へ、そして、規制法令の失効という混乱事態に遭遇していたのであつて、経済目的がいかに力説されても、なお旧法以来の公共の安全を図る必要性は豪も失われなかつたと解される。

2 武器等製造法第一条は、「この法律は、武器の製造の事業の事業活動を調整することによつて、国民経済の健全な運行に寄与するとともに、武器及び猟銃等の製造、販売その他の取扱を規制することによつて、公共の安全を確保することを目的とする。」と述べ、本法の目的は、武器製造事業の事業活動の調整という経済目的と公共の安全の確保という公安目的との二つを掲げているのであつて、その目的からすれば、事業として受注に堪え得べき性能、威力を有するけん銃、小銃、機関銃、砲のみが、法の規制対象とさるべきものでなかつたことは明らかである。

規則二条の設けられた趣旨は、主として、武器製造事業、猟銃等製造事業の事業活動を調整する目的から設けられたものであつて、公共の安全目的を含む同法にあつては、武器の範囲をたやすく同規則に定める種類のものに限定すべきものではないのである。

もつとも、同規則の定める種類の銃砲は、その性能威力よりして危険性が高いところから、銃刀法等において他の銃砲と異なる扱いがなされ、これが法の製造の罪の罰則の構造に影響を及ぼしていることは明らかであり、両法の罰則を比較対照することによりはじめて法三一条の罰則の構造が明らかになるものと考える。

四1 そこで、法と銃刀法との関連を一瞥すると、法は、昭和三〇年法律第五一号「銃砲刀剣類等所持取締令の一部を改正する法律」の附則および昭和四〇年法律第四七号「銃砲刀剣類等所持取締法の一部を改正する法律」等の各附則等により数次にわたつて、各その一部が改正されてきたものであつて、両法の関連は極めて高いのであるが、特に、前記昭和四〇年の銃刀法改正により、改正前の銃砲の定義が、「銃砲とは金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲及び空気銃(圧縮ガスを使用するものを含む)をいう」とあつたものが現行法第二条のとおり「この法律において「銃砲」とは、けん銃、小銃、機関銃、砲、猟銃その他金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲及び空気銃(圧縮ガスを使用するものを含む)をいう」と改められ、この改正により銃刀法上、はじめて規則二条一項一号に武器の種類として挙げられているけん銃、小銃、機関銃、砲と同義の用語が用いられて銃刀法三一条の二が新設され、けん銃等すなわち「けん銃、小銃、機関銃、砲」(銃刀法三条の二)の所持については、特に法定刑を引上げ、従前、銃砲の所持について、一律に三年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金であつた法定刑を五年以下の懲役又は二〇万円以下の罰金とし、それ以外の銃砲の所持については、従前の法定刑を維持したのである(銃刀法三一条の三本文一号)。

そして、同年右銃刀法を改正する法律の附則六項により武器等製造法三一条に、後段として、「この場合において、第一号又は第四号の規定に該当する者が銃砲又は猟銃の製造をした者であるときは、五年以下の懲役若しくは三〇万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」が加えられ、現行法の体裁になつたのである。これによる改正前の法三一条においては、同法四条の規定に違反したものは、単に三年以下の懲役若しくは三〇万円以下の罰金に処せられ、又はこれを併科することとされていたのであつた。

2 この間の事情に関し、警察庁防犯少年課長「銃砲刀剣類等所持取締法の改正」(警察研究三六巻六号五九頁以下)は、「銃砲は、定義的には、金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲と、空気銃に分けられているが、この装薬銃砲の例示として、けん銃、小銃、機関銃、砲、猟銃を掲げたのである。

これは、異質的に定義の内容を変更するものではなく、けん銃等と猟銃を罰則規定(第三一条以下)において他の銃砲と区別して、その不法所持を重く罰するようにする条文を新設することに伴う立法技術上の要請に基く改正である。

罰則との関連において改正されたのであるため、このけん銃、小銃、機関銃、砲および猟銃の概念は、武器等製造法におけるそれと同様のものとして規定されているのである。後でふれる武器等製造法もこのけん銃、小銃、機関銃、砲および猟銃については、これを本法の罰則にあわせて引き上げているのである。したがつて、武器等製造法第二条第一項第一号に規定するところの武器としてのけん銃、小銃、機関銃および砲と、同法第二条第二項第一号に規定する猟銃と同様の概念になるのである。(傍点は当裁判所)」「第三一条の二で、これは、銃砲刀剣類の不法所持の中で、けん銃等および猟銃は、特にその危険性が高いので、他の銃砲刀剣類と区別して重く処罰することとしたものである。すなわち、けん銃等および猟銃の不法所持に対しては、五年以下の懲役または二〇万円以下の罰金に処することとした。これに関連して、武器等製造法の罰則を附則の規定(附則第六項……武器等製造法第三一条の改正)で改正して、けん銃等および猟銃の製造違反に対しては、五年以下の懲役または三〇万円以下の罰金に処することとし、所持違反との罰則の均衡を図ることとした(傍点は当裁判所)。」と述べている。

また前同改正する法律案の提案理由は、「……次に罰則の強化について御説明いたします。銃砲刀剣類の不法所持に対する罰則は、現在一律に規定されているのでありますが、拳銃等および猟銃の不法所持は、その危険性から見て、他の銃砲刀剣類の不法所持と区別して重く罰することとし、また危険防止の観点から、銃砲刀剣類の不法な携帯、運搬等についても罰則を引上げる等、最近における暴力団等による銃砲刀剣類の不法な所持及び使用に対処することといたしたのであります。

なお、この罰則の強化に伴い、拳銃等及び猟銃の製造違反に対しても同様の措置が必要でありますので、附則の規定により武器等製造法の罰則の一部を改正することといたしたものであります(国務大臣)(傍点は当裁判所)。」(第四七回、第四八回国会制定法審議要録、参議院法制局編一一二以下)というのであつた。

3 前記解説は、「けん銃、小銃、機関銃、砲および猟銃の概念は、武器等製造法におけるそれと同様のものとして規定されているのである」「武器等製造法第二条第一項第一号に規定するところの武器としてのけん銃、小銃、機関銃および砲と……同様の概念なのである」と述べるけれども、同法自体はかかる用語を用いておらず、同法施行規則においてかかる用語を用いていることおよび銃刀法がけん銃等の所持とその他の装薬銃砲の所持とを明らかに区別し、罰則に軽重を設けているにもかかわらず、法についてはかかる区別を明確にしていないことよりすれば、右見解は法二条一項一号、三一条の銃砲の範囲と同規則二条一項一号に武器の種類として挙げられている銃砲(けん銃、小銃、機関銃、砲)とを同一視しているかの観がある。

しかし、すでに述べたように規則二条一項一号に定める銃砲の範囲は、法の銃砲の範囲を限定するものではないから、規則二条一項一号の銃砲の製造とその他の銃砲の製造の両者について製造の罪が成立すると解する外ないのであり不明確な点があるとするならば、上来述べ来つた各種の観点より、合理的に解釈して行くべきであると考える。

4 一般に、取締対象物について、その製造と所持を規制する場合には、製造の罪は、所持の罪より重いかまたはこれと同等の法定刑を設けるのが通例であるといわれている(いわゆる火炎びん処罰法においては製造、所持につき同一法定刑を定める)。銃砲刀剣類所持等取締法が、前述のとおり、けん銃等(けん銃、小銃、機関銃、砲)の不法所持の罪の法定刑を五年以下の懲役又は二〇万円以下の罰金に定め、その他の装薬銃砲の不法所持の法定刑を三年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金に定めて、両者に軽重を認めたことは、前者のけん銃等が他の装薬銃砲に比して危険性が高いことよりみれば理由のないことではない。しかし、昭和四〇年の同法を改正する法律による改正前の銃刀法における不法所持罪の法定刑は一律に三年以下の懲役又は罰金一〇万円以下であり、同改正する法律の附則による改正前の法による製造の罪の法定刑は、懲役刑の長期において不法所持罪と同じくし、罰金刑においてやや多額を重くし、また両者の併科を認める点で製造の罪の刑が不法所持の罪の刑より重かつたのである。換言すれば、罰金刑において一〇万円重かつたことと、併科を認める点で重かつたにすぎない。

現行法上、不法所持、製造がともにけん銃等にかかるものであるときは、製造罪について法三一条後段の適用あることは疑いがなく、この場合には両者とも懲役刑の長期を同じくし、製造の罪において罰金刑の多額をやや重くし、併科を認める点で不法所持の罪より重いこととなるから、その均衡は、両者相保たれていると思われる。

しかし、けん銃等以外の製造の罪についても法三一条後段の適用があるとする場合、その不法所持については、銃刀法三一条の三第一号の適用があり、懲役刑の長期を三年、罰金刑の多額は一〇万円となるから、前記の製造の罪(三一条後段)の法定刑との間に著しい不均衡があり、製造の罪に酷な結果となることは明らかである。

この不合理は、法三一条後段の銃砲を無限定に考えることにより生ずるものである。

五すでにみてきたように、同条後段が新設された目的は、けん銃等(けん銃、小銃、機関銃、砲)の不法所持の法定刑を引上げたことによる不均衡を是正することにあつたことからすれば、法三一条後段の銃砲は、けん銃等にかぎられると解するのが妥当である。

そして、それ以外の装薬銃砲は、なお、法二条一項一号の武器にあたるからこれらの製造は法四条違反に該当し、従つて、法三一条前段の罪を構成することとなると解すべきである。こう解することは、文理に反するとは思われず、過酷な刑罰を避け、その均衡を保つこととなつて妥当であると考える。

六前掲証拠によれば、本件改造銃は、ウインチェスター銃を形取つたがん具を改造したもので、銃身を鉄パイプで取替え、遊底頭の中央部に三ミリメートル程突起する固定撃針を取り付けて製造したもので、正規実砲の装填は不能であるが手製実砲は薬室に装填可能であり、撃発操作により、手製金属性弾丸が発射し、銃口より1.5メートルの距離に立てられた、厚さ三ミリメートルのラワンベニヤ板一枚を貫通し、二枚目に当つて落下した程度の威力を有することが認められるから、金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲であることは疑いないところである。

しかしながら、本件改造銃の有効射程距離、最大到達距離については何らの証明がなく、却つて証人中島富士夫の証言によれば、同人が発射実験を試みた四〇数件の改造拳銃の大部分のものに比し、威力は半減するというのであつて、これによれば改造拳銃の性能全般よりも一層劣ることが明らかである。

本件改造銃は、その性能において小銃とは認めがたいし、性能および構造において機関銃、砲とは到底認めがたく、形態威力性能において拳銃とも認めがたい。要するに、これ以外の装薬銃砲と認められるから、被告人が、本件装薬銃砲を製造した所為に対しては、武器等製造法三一条前段を適用すべきである。

よつて、主文のとおり判決する。

(田口祐三)

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